期待リターンがいくら高くても、それに対するリスクが高すぎると、長期の運用ではマイナスになる可能性も高くなります。

株価が対数正規分布に従う、と仮定するモデルの簡単な説明とともに、リスクがリターンに与える影響を確認してみます。

リスクとリターンのモデル(対数正規分布)

伝統的な金融工学の多くの理論では、株価の変動率は正規分布に従う、という前提を用いています。

細かい説明は省きますが、変動率が正規分布に従うと、株価は対数正規分布という、こんな感じの分布になる、というモデルで多くの場合が説明されています。

対数正規分布の例(期待リターン5%、リスク20%)

外国株式くらいの期待リターンとリスクをサンプルにした分布ですが、

  • 横軸:投資元本が何%のリターンになっているか
  • 縦軸:そのリターンになる確率の大きさ

を表しています。

期待リターン(年率)5%といっても、リスクが20%もあると、1年後の評価額には相当なばらつきがある、という事が何となく分かると思います。

正規分布と対数正規分布の関係

平均µと標準偏差σをもつ正規分布に対して、対数正規分布の平均Eと標準偏差sは、

     \begin{eqnarray*} E &=& e^{\mu + \sigma^2 / 2} \\ s^2 &=& e^{2\mu + \sigma^2}(e^{\sigma^2} -1) \end{eqnarray*}

になります。逆に、平均Eと標準偏差sの対数正規分布は、次のパラメータの正規分布となります。

     \begin{eqnarray*} \mu &=& log(E^2 / \sqrt{s^2 + E^2} ) \\ \sigma^2 &=& log(s^2 / E^2 + 1) \end{eqnarray*}

対数正規分布の平均値・中央値・最頻値

平均値(mean)は「全部を足して、足した個数で割ったもの」、中央値(median)は「全部を並べた場合に真ん中にくるもの」、最頻値(mode)は「全部の中で一番個数が多いもの」の事です。

平均µと標準偏差σをパラメーターとする、対数正規分布の場合は、

     \begin{eqnarray*} mean &:& e^{\mu + \sigma^2 / 2} \\ median &:& e^{\mu} \\ mode &:& e^{\mu - \sigma^2} \end{eqnarray*}

となります。

先ほどの、期待リターン5%、リスク20%の場合で計算すると、1年後は平均:105.0%、中央値:103.1%、最頻値:99.5%となります。

最も発生する確率が高いのが「マイナス」となる結果になる、というのはちょっと意外だと思います。

N年間の複利運用をした場合

N年後のリターンの分布

同じ期待リターン・リスクが続くとして、N年間の複利運用をした結果を計算してみます。

対数正規分布は掛け算が簡単という特徴があり、N年後の正規分布のパラメーターμNとσNは、

     \begin{eqnarray*} \mu_N &=& \mu N \\ \sigma_N &=& \sigma \sqrt{N} \end{eqnarray*}

となります。

先ほどと同様に、期待リターン年率5%、リスク20%の場合について、1~10年間の複利運用を継続した場合の期待リターンの分布を重ねると、このようになります。

N年後の期待リターンの確率分布(期待リターン年率5%、リスク20%)

(凡例をつけていませんが)年数が経過するごとにピークが低くなり、裾野が広がっています。ピークがやや左に移動していっているように見えます。

たまに「投資期間が長くなるほどリスクが高くなるのか?低くなるのか?」というテーマが話題になりますが、リスクを価格のばらつきの可能性の大きさ、と定義した場合は、投資期間が長くなるほどリスクは高くなるという結論が正しい事になります。

N年後の平均値・中央値・最頻値の推移

同じ結果の見方を変えて、平均値、中央値、最頻値がどのように推移しているかを見てみます。

N年後の平均値・中央値・最頻値の推移(期待リターン年率5%、リスク20%)

平均値は、毎年5%の複利運用を続けた場合によく計算する結果と同じです。10年後に、1.0510≒1.63、になっています。

ここで注目すべきは、中央値の低さ、最頻値のマイナス、だと思います。リスクがリターンを毀損する結果になっています。

リスクを抑えてリターンを取るとどうなるか?

全く同じ事を、期待リターン3.5%、リスク10%でグラフにしてみます。内外の株式・債券に分散投資するとこれくらいの数字になると思います。

先ほどと違って、年数が経つごとに山が右側に動いているのがよくわかります。最頻値もプラス推移です。

リターンに対して適切なリスクが取られている、とも言えます。

N年後の期待リターンの確率分布(期待リターン年率3.5%、リスク10%)

N年後の平均値・中央値・最頻値の推移(期待リターン年率3.5%、リスク10%)

まとめ

今回の計算結果は、あくまで机上のもの、です。実際にはこの通りになる事はまずないでしょう。(対数正規分布のモデルは、多くのケースを説明できるものの、現実とのズレがあります)

従って、この結果をもって「このように運用すべき」という正解はどこにもありません。

ただ、リスク資産一本で投資する、という事は、結果的に長期のリターンを毀損する可能性がある、という点は知っておいて良い事だと思います。

リターンの低い債券はポートフォリオにいらない、という意見をたまに耳にしますが、債券などを組み入れる分散投資によって、リスクとリターンのバランスを調整できる、という点が重要です。

リスクを抑えることが長期のリターンに繋がる可能性があります。債券投資に興味がない方も、たまにはポートフォリオに組み入れてみてはいかがでしょうか?

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